「Merei-träu(メライトロイ)」はシューマンの「トロイメライ」を一旦解体し、再構築したピアノソロ作品です。実は前任校の和声の授業で学生に課題として行わせた内容をヒントにしたもので、自分もその課題をやってみたら作品そのものが出来上がってしまった・・・という経緯があります。
ちなみに題材となっているシューマンは、学生時代はそこまで思い入れのある作曲家ではなかったのですが(高校時代『アベッグ変奏曲』は楽しく弾いたものでしたが)、楽曲分析の授業でロマン派の作品を取り上げることになった際、改めてその魅力に惹かれたのでした。作品の所々で現れる「謎」のようなポッカリとした穴に足元すくわれる感覚がいいなと思います。
「Performance studies 6」はアルバムを締めくくる大切な一曲です。「対位法による任意の音楽の楽譜を選びなさい。任意の内声部のみ1小節遅れて演奏しなさい」というインストラクションを愚直に実行しているのですが、奏者の格闘とは裏腹に、儚い夢のような音の断片が漂います。このトラックに限らず「Performance studies」シリーズは、演奏した本人でさえも音源をなかなか個々のテイクを識別できず、ミックス・マスタリング作業の際に非常に苦労した思い出があります。
いずれの二曲も、録音ならではのピアノの音の響きにこだわりました。倍音の広がりや、奏者の逡巡まで聞こえるような音の佇まいを是非お楽しみいただけたらと思います。