17.3.25

坂本光太テューバリサイタル:B→C バッハからコンテンポラリーへ

 明日3月18日(火)、オペラシティリサイタルホールにて、坂本光太さんによるリサイタル「B→C バッハからコンテンポラリーへ」が開催されます。

大変嬉しいことに、その中で坂本さんに過去演奏していただいた拙作の改訂版《あるチューバ/テューバについての物語》(2021/2024)が、坂本さんのテューバと杉山萌嘉さんのピアノによって演奏されることとなりました。

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B→C バッハからコンテンポラリーへ 270 坂本光太(テューバ)
日程|2025年3月18日[火]19:00
会場|東京オペラシティ リサイタルホール
出演|坂本光太(テューバ)
共演|杉山萌嘉(ピアノ)
   長洲仁美(パフォーマンス)
   山﨑燈里(パフォーマンス)
   和田ながら(演出)
   甲田 徹(音響)
曲目|J.S.バッハ:カンタータ第12番《泣き、歎き、憂い、怯え》BWV12から「シンフォニア」
   J.S.バッハ:ソナタ ト短調BWV1030b 
   久保田 翠:あるチューバ/テューバについての物語(2021/24)
   山﨑燈里:黒い帯(2021)
   和田ながら/坂本光太:新作(2025、世界初演)
   カーゲル:アーテム (1970)
   グロボカール:エシャンジュ(1973)

ご予約・詳細
>>https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=16418
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せっかくの機会ですので、この作品の成立過程を書いておきたいと思います。

坂本さんとはパフォーマンスグループ「実験音楽とシアターのためのアンサンブル」で初めてご一緒しました。2017年、出会って早々にヨーロッパツアーに参加しました。その時の演奏動画はいくつか既にYoutubeに上がっています。

    河野聡子 Satoko Kono - Spin Cycle (2017)

    https://www.youtube.com/watch?v=4NAr8SNFqyc

    一柳慧 Toshi Ichiyanagi - Sapporo (1962)

    https://www.youtube.com/watch?v=oSXIXm795Yw

    久保田翠 Midori Kubota - 東京特許許可局 Tokyo Patent Approval Office (2017)

    https://www.youtube.com/watch?v=M07SD8tWYYk

この時点で他のメンバー同士はある程度一緒に演奏した経験があったわけですが、そこに新たにやってきた坂本さんは恐るべき柔軟さと高度な身体技術、ご本人の親しみやすいキャラクターとが相俟ってあっという間にアンサンブルに溶け込んだのでありました。

その後何年か経ち最初にソロ曲のご依頼をいただいた時、作品の「内容」についてはその時点でどうなるかわからなかったにせよ、演奏結果として坂本さんご自身のありようが感じられるような作品を作りたい、と思いました。坂本さんと直接お話になったことのある方には伝わると思うのですが、坂本さんは大変実直で音楽に対し誠実で、かつ声・話し方とか身のこなしに坂本さんらしい、えもいえぬ魅力があるのですよね。そうしたものが(第一目的ではないにしても)どうしようもなく現れてしまうような、坂本さん「が」演奏することに意義のある作品にしたいと考えました。

ちょうど当時作曲していた時期に、話すという行為にも興味があり、濱口竜介監督の作品(『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』)や著書『カメラの前で演じること』(左右社、2015年)に関心を抱いていたこと、わたし自身のアルバムにおいて「ドキュメンタリー」について考えていたこと、昔から好きなタランティーノ作品における冗長なおしゃべりを作品に転用したいなと考えたこと、などが絡みあって、最初の作品《あるチューバについての物語》(2021)が完成しました。坂本さんは話しながら演奏をしますが、その言葉はテューバという楽器についての説明であったり、自分自身の過去についてであったり、観客に対する問いかけであったり、坂本さんの行為についての説明であったりします。

その後改訂を重ねるたび、経過した時間を踏まえた記述を加えており、今回は演奏会にメタ的に触れる箇所があります。

リハーサルに先日伺ってびっくりしたのですが、この数年を経て、坂本さんの発話の様子が初演とはかなり変化をしているのですよね。もとより坂本さんご自身の発話の響きを反映させることが作品の目標のひとつでもあるので、そうした変化自体が作品のなかで生き生きと生じるのは願ったり叶ったりなのですが、ある作品を重ねて再演するということの意義を深く感じたのでした。

最後に、上にあげたいくつかのインスピレーション源について少し触れたいと思います。

濱口竜介監督は準備段階におけるセリフの扱い方について有名ですが(『ドライブ・マイ・カー』の中で演技という形でその方法を目にすることができる)、発された言葉の中に何事かが生じてしまう、そのような瞬間を撮影過程において準備する(そして映像にとらえる)というところに魅力があると思います。「実験音楽とシアターの〜」でパフォーマンス作品に取り組んできたときにも、そのような「何かが起こるのに立ち会うこと」ということへの興味がわたしの中に醸成されたわけですが、その興味が、より言葉に注目をした作品へと発展したかなと感じます。

「ドキュメンタリー」についてですが、本作で坂本さんは坂本さん自身について語る場面があるのですけれども、その中には真実もあり、わたしの書いた言葉を通じて多少の誇張やフィクションになっている「であろう」ところもある。そもそもドキュメンタリーというものがフィクションでもあるわけで、語られたことがフィクションとドキュメンタリーの間を彷徨うような、そんな言葉のありようになっているかと思います。そしてそのような曖昧な言葉のありようは、逆説的に聞こえるかもしれませんが、先にも述べた坂本さんの音楽家としての誠実さゆえに実現されているといえましょう。

タランティーノについては初期作品からマシンガントークや登場人物同士のダラダラと続くなんてことはない会話が有名ですが、作品の時間の中にそのような淀む時間、一方向に流れているのではない時間が流れるといいなあと思い、坂本さんに関連のある言葉として入れてあります。

言葉によって設定されたいくつかのコンテクスト、それらのコンテクストにおいてこそ実現しうる楽器の音、

言葉と音との対応、言葉によってこそ示すことのできる内容、しかしながら言葉からはこぼれ落ちてしまう内容、

坂本さん自身の身体に固有の響きやそうではない響き、

フィクションとノンフィクションの狭間で揺れ動くもの。

そうしたもの全てをあるひとつのチューバ/テューバについての、あるいはチューバ/テューバという楽器総体についての物語として、

坂本さんのチャーミングな演奏を通じてお届けできたら幸いです。

8.2.25

「アジア音楽祭2025 in Kawasaki 室内楽コンサートⅢ Strings」終了

「アジア音楽祭2025 in Kawasaki」の演奏会群のひとつ、「室内楽コンサートⅢ Strings」が盛況のうちに一昨日終了いたしました。

松岡麻衣子さん、亀井庸州さん、迫田圭さん、竹本聖子さんという超豪華メンバー弦楽四重奏により、アジア各国の作曲家による5作品が演奏されました。

作曲家は皆異なるバックグラウンドをもち、求める音の響きも異なりますが、素晴らしい演奏者たちによって各曲の良さ・持ち味が遺憾無く発揮され、自分で言うのもなんですが客席の反応もとてもよかったと感じました。

五曲というのは通常の演奏会としては少ない曲数かもしれませんが、一曲一曲の個性が明確に際立って、むしろ今回の演奏会においてはよい構成になったと思いました。

私の作品「秘密のことば」は、楽器を通じて話しながら(実際に話すわけではなく、作曲者の話した音源を記譜した音符を話すように弾く)歌も歌い、という異なるレイヤーを行き来する作品なのですが、なんとも鮮やかな音像にしてくださいました。しちめんどくさいコンセプトの説明に耳を傾け、真摯に取り組んでくださった演奏者の方々に改めて心より感謝申し上げます。

演奏会にいらしてくださった方のブログで、演奏会が取り上げられました。作品についてのコメントがメインのようですが、ぜひご覧ください。
大島資生
https://note.com/modochan/n/nec0dc0aa72aa




29.1.25

JFCアジア音楽祭2025 in Kawasaki

来週2月3日よりミューザ川崎で、JFCの「アジア音楽祭2025 in Kawasaki」が開催されます。アジア各国の作曲家たちの作品を一堂に集めたこの音楽祭、2月5日の弦楽合奏の演奏会の企画を担当しました。

JFC「アジア音楽祭2025 in Kawasaki」 ← クリックすると音楽祭全体のプログラムが見られます。

室内楽コンサート Ⅲ Strings
2025年2月5日(水)19:00開演
ミューザ川崎 市民交流室

ヂャヨン・ベク(韓国): The piece of memory for two violins 
ユーフン・ウン(シンガポール): I Came, I Slept, I Departed
今村 央子 (日本): 此処-池田澄子の俳句による-
久保田 翠 (日本): 秘密のことば
アリス・ダリョーノ(インドネシア): Cekaking Carita

演奏
ヴァイオリン:松岡麻衣子・亀井庸州
ヴィオラ:迫田 圭 チェロ:竹本 聖子
チケット:3,000円(全席自由)
  12月12日一般発売開始 (一社)日本作曲家協議会 
  03-6276-1177 concert@jfc.gr.jp
  カンフェティチケットセンター 
  050-3092-0051(平日10:00~17:00)


私の作品『秘密のことば』も初演されます。
錚々たるメンバーによる演奏、今から大変楽しみです。
私の方でチケットをご用意できますので、よろしければご興味のある方はご一報ください。

ちなみに私の新作は、録音音源とそれに対する自分の語りの音源、さらにそれらに対する楽譜上での注釈(エクリチュール)とをいちどきに楽譜に記して弦楽四重奏曲というフォーマットについて論じたような、複数のレイヤーが入り組んだ内容になっております。他の方たちの作品も、新たな響きをそれぞれの仕方で探求した素敵な作品ばかりです。
是非是非お運びいただけると嬉しいです。

ちなみに2022年に同じアジア音楽祭で初演された、ヴァイオリニストとチェリストのための初演動画はこちらです。
今回の作品とは異なりますが、音楽家がさまざまなシチュエーション(文脈)によって異なる身振りの音を出しているのではないか・・・という想定のもとに作曲した作品です。

久保田 翠:Violinist and Cellist (アジア音楽祭2022 in Kawasaki) 
KUBOTA Midori(Japan):Violinist and Cellist
https://www.youtube.com/watch?v=fyQmDnk0IE8



28.1.25

新・謹賀新年/天命反転住宅

なんと、前回の投稿からキリよく1年ぶりとなってしまいました。

2024年を振り返ると、色々やり足りなかったと思いつつも色々のタネを撒くことができたかなとも思います。

ところで三鷹市にある天命反転住宅に先月滞在しました。
荒川修作とマドリン・ギンズによるこの作品、というか住宅、
ショートステイプログラムがあり、数日以上という条件付きで宿泊することができます。
滞在の前にはあれをしよう、これをしようと色々考えていたのですが、いざ宿泊すると、普通に「暮らす」だけでもなかなかしんどい(笑)。写真を見ても分かるとおり床が波打っていて、平地が特定の部屋にしかありません。思った以上に身体にこたえて、みぞおちにぐるぐると来る感じがずっと止まりませんでした。
ここでの色々の実験の成果は今後また改めて。







10.1.24

謹賀新年

あけましておめでとうございます。

2023年もいろいろな事に取り組みましたが、そのなかでもいくつかの心に残ったものについて書いておきたいと思います。

【7月VerbFes】

7月福岡でおこなわれたイベント「VerbFes」への参加は、自分の視野を大きく拡げてくれるものでした。
https://x.com/_pilate/status/1671994233769836544?s=20

逆卷しとねさん主催によるこのイベント、任意の動詞ひとつを選んで自由な形式でプレゼンするという仕立て。私は「遅れる」を選んで、自作をモチーフにしつつ、音源制作と自らの身体との関わりを言葉と実演で示すということを行いました。逆卷さんはじめ、以前からずっとTwitterや書籍を通じて存じ上げていた方々とリアルでお話しすることができ、楽しかったと同時に非常に学びとなったイベントでした。




✳︎

【ユリイカ 坂本龍一特集号に「作曲という営みの庭――坂本龍一といくつかの小石」寄稿】

2023年に亡くなった坂本龍一氏を偲ぶ特集に寄稿しました。

幼い頃から耳にしていた作曲家ではあったものの、改めて言語化作業を行うことで、いろいろの視座を得ることができました。
あえてよく知られたピアノ曲の中に現れた坂本の身体の痕跡をたどりました。

✳︎

【相内啓司さんによるアニメーション作品『REM - The waves of endless dreams- MKーC 』上映および各国の映画賞ノミネーション・受賞】





相内啓司さんによる上記作品に作曲したのは確かコロナ前。その後相内さんが丹念に時間をかけて制作された作品が都内で上映されたほか、世界中で数々の映画賞を受賞され、かつ多くの賞でノミネートされました。以下にそのデータの一部を載せました。
今後もさらにいろいろな方に見ていただける機会が増えるといいなと思います。







今年は教科書の出版、新しいアルバムの発表などを予定しています。

5.4.23

東京大学東アジア藝文書院『籠城』上映会+アフタートーク 星野太+小手川将+高原智史+乙幡亮

残念ながら私は伺えなかったのですが、昨年11月27日(日)に東大駒場キャンパスにて行われた映画『籠城』のアフタートークの模様がアップされました。
かつて私が修士に入る前に発売され読んでいた『表象のディスクール』について触れられていたり、最初から映画を作るつもりだったのではなく、一高プロジェクトが展開するうちに「映画を作る」ということになったことなど、興味深いエピソードが書かれています。声の使い方についての星野太さんからの鋭い指摘や、観客からの率直な意見、高原さんの声が聞こえてきそうな書き起こしなど、読み応えある内容です。

ちょうど昨年の2月末、 『籠城』制作チームのトークが、渋谷QWSにて行われました。

リベラルアーツとしての映画制作とは?-東京大学東アジア藝文書院『籠城』制作チームトーク~QWSアカデミア(東京大学)~
https://midorikubota.blogspot.com/2022/02/blog-post_17.html

あれから1年以上経ったと思うと、早いなと思います!
よい区切れとして、関連記事をいくつかまとめておきます。

EAAリサーチアシスタントであり、本映画制作にも関わっている小手川さん・高原さん・日隈さんの書かれたご報告も、公開されています。
https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/blog/report-20220227/

また、東京大学の広報誌「淡青」44号に、監督の小手川将さんのインタビューが掲載されています。
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z1304_00042.html

こちら、掲載号の直接のリンク先です↓
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00165.html

こちらの学内広報は、表紙に『籠城』の一場面が表紙になっています。
10ページにも撮影風景が掲載されていますね。
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400182712.pdf


2022年6月15日(水)に駒場キャンパス900番教室で行われた上映会では、アフタートークがあわせて開催され、ゲストとして千葉文夫先生が登壇されました。
この記事の中で私と父親とのやりとりにチラッと触れていただいており、嬉しく思いました。
『籠城』がさらにどのような作品へと繋がっていくかについても考えさせられます。
https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/blog/rojo-aftertalk-20220615/

ところで自分はこの映画で得られた経験をもとに、新たな作品を構想中です。
作品が新たな作品を呼ぶように感じています。

21.2.23

「音楽本大賞」創設に向けて

こんにちは、長らくご無沙汰しておりました。
昨年の最終更新が4月、その後猛烈な勢いでとある仕事に取り掛かっていたのですが、
そちらについてはいずれ公表できると思います。乞うご期待。


ところで今回、「音楽本大賞」をご紹介させていただきたいと思います。

本を対象とする賞は数多くあれど、「音楽本」を対象とする本はない、優れた音楽本の存在もっと知ってもらいたいというところから「音楽本大賞」が立ち上げられました。発起人は鈴木茂さん、木村元さん、河西恵里さん、岸本洋和さんというすごいメンバーです。

また、選考委員も大和田俊之さん、小室敬幸さん、松平(工藤)あかねさん、渡邊未帆さんという錚々たるメンバーです。

こちらの大賞開始に際し、運営費やリターン制作費、デザイン費といった様々な費用をカバーするためのクラウドファンディングが立ち上げられました。

https://motion-gallery.net/projects/musicbookaward

わたくしも賛同人として、上のページでコメントを寄せさせていただきました。
現在、残り日数49日の時点で目標額まであともう一息です。
ぜひ少しでもご興味を持たれた方は、リンク先をご覧になってみてください。選べる金額にもかなり幅があり、参加しやすいと思います。